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馬鹿にならないとできない仕事だと思う
七角削りの箸
丸川さんがこの仕事に出会ったのは、たまたま結婚した女性がこの家の娘だったせいである。山形の高校を出て千葉の印刷会社で働いていた20歳のとき、結婚の話をしに竹田家を訪れるうち、木に囲まれた素朴な仕事にどこか惹かれた。「都会に来たのになぜか懐かしくて」。印刷職人の仕事も好きだったが、箸の話を聞いたり見たりするうちに「自分もつくってみたい」と素直に思うようになったという。「口下手なので、もともと職人への憧れも持っていました」。若かった丸川さんは、やりたいという気持ちだけでこの道に飛び込んだ。ただ、「変な自信」はあったのだと言う。今まで、何をやっても一番にはなれなかったけど、二番か三番にはなってきた、そういうタイプだったから。
たとえば、最近丸川さんが力を入れている七角削り。東京の木箸は、胴張り型という断面が四角のものに限られていたが、まず角を削って八角にすることで丸に近いが滑らない握りやすい箸ができた。その後、指の数は奇数なのだからと五角の箸をつくってみると実にぴたりと手におさまりよいことに気づく。さらに奇数の七角にトライ。すると、「五角の良さと八角の良さを併せ持ち、手にとてもしっくりくることがわかりました。もし持つ人に合わせ ちなみに箸は通常100膳〜300膳の単位でつくるというが、1膳(2本)なら誰にでも何とかできるという。しかし、50膳をまったく同じ形につくり上げるには相当な集中力が必要だ。大黒屋の箸はすべてではないが、細い箸先まで五角や七角が続く。箸の頭から先にいたる微妙なカーブこそが握りやすさ、そしてつまみやすさの鍵となる。私にはまったく同じに見える箸が、丸川さんには、大黒屋の3人の職人のうち誰がつくった箸か一目でわかるという。それほど微妙ながら特徴のある形を50膳、まったく同じに削り上げる。さらにそれを100膳まで高めるのが大変だったと丸川さん。「50膳つくる2倍の時間がかかるなら50膳ず 「忙しくなり数が増えてくると、疲れや飽きを感じたときに『ま、いいか』と人間は思うもの。でもそこに小さな妥協が入ると、すべて崩れてしまう」。だから、ちょっと馬鹿にならないと、と言って丸川さんは笑う。実は一度だけ、暮れにものすごく忙しく追われていたとき、「これでもいいか」と心が緩んだことがある。すると漆の塗りが上がってきたとき社長から「傷があるからやり直してくれ」と言われた。ある意味、「自分でわかっていた」。後で異様に腹だたしくて、そのときの自分の感覚が許せなくて、もう二度とやらないと心に決めたという。「唯一、後悔していることです」。丸川さんはそう言った。
興味深かったことは、極度に繊細なまさに職人技といえる仕事をしていながら、大黒屋は、次々と新しい商品を生み出しているという点である。丸川さんは「職人とは、伝統の技法を受け継ぎながら、今に合ったものをつくり出す人」だと言う。「伝統の技法を使って、昔と同じものをつくり続けている人」は丸川さんの思い描く職人ではない。 最後に「丸川さんにとって箸とは」と聞いてみると「自分を表現できる唯一のもの」と返ってきた。人づきあいはもともと苦手、これがないと困ってしまう、と笑う。「箸を見て、どういう人がつくってるのかなと思われたいです」。そして「いつも一番になれなかったけど、箸では一番になりたいです」とはにかんだ。
■ 箸業界 :
■大黒屋
私の方は相変わらず日々もくもくと、箸を削っています。それと新商品も幾つかできたので、ぜひショップの方に足を運んで下さい。(2009.3.26.丸川徳人さんよりメール)
昨年11月発売の新商品「究極相棒箸」は、近年人気の小さくなるマイ箸の大黒屋バージョン。五角、七角、八角箸のジョイントは考えただけでも難しいが、4年間の試行錯誤の末、完成した。
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