

職人File
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江戸の頃のまま、変わらぬ絵柄を伝える千住絵馬。
木を薄く削った経木を材料とする独特の風合い。
泥絵の具の鮮やかなオレンジが印象的である。
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吉田晁子 |
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シュルルッ、シュルルッ、シュルルッ。カンナをかけ始めた井上健志さん(36歳)の右側に桐のカンナ屑がたまり始めた。薄いカンナ屑を3枚か4枚削り出すたびに、手の指で、削っている桐の板の端を押さえ、平らになっているかどうか確認する。下に敷いた「あて台」がきちんと平らである限り、軽く押さえることで平らを確認できる。・・・ |
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井上健志 |
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誰でも靴は履いてみて買うでしょう、靴は、寸分違ってもいやなのに、毎日何度も使う大事な道具である箸をなぜ握ってみて買わないのか。大黒屋主人、竹田勝彦さんにそう言われてはっとした。確かに足と同様、手は、形も大きさも、また指の形や動き方まで人それぞれ。ある意味、足よりも敏感で個人差もずっと大きい。・・・ |
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大黒屋 丸川徳人 |
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「大学出てこんなとこ来るやつの気が知れねえよ」。ぽんぽんと小気味良い軽口をたたくのは大工歴15年の本間義仲棟梁(34歳)。入社以来直属で世話になってきた先輩に言葉を返すわけでもなくただ、皆の笑いに巻き込まれて笑う佐藤圭さん(26歳)は、この夏初めて棟梁を任され、東京町田に1軒の家を建てた。・・・ |
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(松永工務店) 佐藤圭 |
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「好きなところで、好きな人と、好きな暮らしができる、ってことかな」。
家具職人になってよかったと思うことは何かと聞いたとき、野義嗣さん(33歳)はそう言った。それは人間なら誰もが望む夢ではないのだろうか。確かな経験に裏打ちされた静かな自信が、野さんの笑顔の裏に見えた。・・・ |
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「まだ煮上がんないの?」「もうすぐだ。そこに並んで待ってな」。
ふわりと甘く濃い醤油の香り漂う広い土間を遊び場に育った3人姉弟と近所の子どもたちは、いつも佃煮の煮上がりを楽しみに待っていた。ほかほかと煮上がったばかりの貝が子どもたちの一番のおやつ。父も祖父も毎日忙しく立ち働きながらも・・・ |
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向島の町を歩くと、予想以上に着物姿の女性に出会う。小学校に上がるか上がらないかの女の子が、七五三でもないのに着物に白足袋をきちんと履いて歩く姿は他の町ではそうは見られない。昼間でもお稽古事に出かける着物姿の女性たちが、薄化粧にほのかな色香を漂わせて足早に歩く。今も約120人の芸者を抱える花柳界、向島の一角にめうがやはある・・・ |
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「もしもし、サイクルピットです! どうなさいましたか?」
次々とかかってくる電話を受ける足立泰則さん(36歳)の声は軽快である。
「こぐと重い? いつごろからですか? 空気は入れましたか? ガリガリ音が出る? いつごろからでしょう?」
自転車の症状を簡単に聞いて、メモを取る。電話を切った後・・・ |
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とろりと重い象牙色の豆乳をそうっと寄せ箱に注ぐ。にがりを加えてゆっくりと混ぜ、しばらく置くとなめらかに固まる。「ああ、こうすりゃ美味い豆腐が俺にもできるんだ‥‥‥とこのごろ少しだけわかり始めて」と杉光謙介さん(30歳)が頬を紅潮させる。
気合豆腐率いる店長の新井弘幸さん(44歳)が横からあれこれ指示を出しながらだったが・・・ |
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ホーホケキョ ‥‥‥ うぐいすの艶やかな鳴き声が、透明な空気の中を通りぬけるように、のびやかに響きわたる。東京都心とは2〜3度は気温が違いそうな水戸の山中、初夏の鮮やかな緑色に包まれた工室の1室で、新堀(にいほり)雄一さん( 33 歳)は花火を仕込んでいた。隣の先輩と時折交わす数少ない言葉をのぞけば、鳥の声以外・・・ |
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グィングィングィン‥‥‥ジーッジーッ。回るグランダーの前で、透明にきらめくクリスタルグラスに人造ダイヤモンドの刃を当てる。若社長が入れた斜めのカットを受け、交差する縦のカットを、澤口智樹さんが入れて行く・・・ |
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手に持てるようなものはほとんど壊してみた。おもちゃ、目覚まし時計、腕時計。物心ついたころから壊し始め、 10 代後半には友達のいらなくなった楽器をもらって、まずエレキギターをバラした。 それからドラム、キーボード、チェロ、サンシン ‥‥‥ バラバラにして、音の伝達はどうか、ボディの材質はどうか等々探求し組み立てなおした・・・ |
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湯を入れる。真赤に融けた鉄を鋳型に流し込むことをそういう。
「キューポラのある街」(1962年、日活、主演;吉永小百合)で有名になった埼玉県川口市は鋳物の町。どろりと赤く光る1500度の液体を「湯」と言ってのける男の町である。最盛期500軒を超えた鋳物工場は100軒前後となったけれど、今も大小さまざまな鋳物工場が軒を連ねる ・・・ |
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「最初は正直、これほどランドセルの仕事が多いとは思っていませんでした」。
アパレルの会社に勤め、商品管理をしていた玉川勲(いさお)さん(35歳)が、土屋鞄製造所に入社したのは4年前である。洋服や身につけるものが好きでものづくりが好きで、「作る仕事」をしたいと転職してきた彼にとって、与えられたランドセルの仕事は・・・ |
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もくもくと白い湯気の立ちのぼる染料のなかでテキパキと男たちが立ち働く。バシャバシャと大きな水音が聞こえるほうに目をやると、染め上がったもめん生地が勢いよく洗いあげられて行く。ついさっき、糊(型)付けが始まったばかりの白生地がみるみるうちに色鮮やかな反物となり、あっという間に青空のもとにはためく・・・ |
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