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てぬぐいを染める
 
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てぬぐいを染める
  旭染工(株)  二関孝宏

一匹狼の職人集団 そこに居ることが心地いい

もくもくと白い湯気の立ちのぼる染料のなかでテキパキと男たちが立ち働く。バシャバシャと大きな水音が聞こえるほうに目をやると、染め上がったもめん生地が勢いよく洗いあげられて行く。ついさっき、糊(型)付けが始まったばかりの白生地がみるみるうちに色鮮やかな反物となり、あっという間に青空のもとにはためく。想像以上に速いスピード感に驚いた。染料がしみついた床や柱から染料の匂いが立ち込め、工場内は活気にあふれていた。

二関孝宏さん( 34 歳)はこの旭染工(株)で3年前から働き、今や大きな戦力となっている染め職人だ。「研究熱心だから覚えが早い」と阿部晴吉社長が評する。

「てぬぐいがたなびく風景がすごくのどかに見えて、いいなあと思ったんです」。職人の道を選んだ理由を聞くと、二関さんはそう言って笑った。地元仙台で就職し、営業マンとして時間に追われあくせく働いていたころ、目に映った地元の風景。笑いながら反物を干す職人の姿を見て「お天道様とにらめっこしながらする仕事に憧れた」のがこの世界に飛び込むきっかけだったという。不景気の真っ只中で、親しい友人たちと「これからは『手に職』だよな」と話していた矢先のことだった。

最初は仙台の染工所に転職するが、そのうち地元の染物業界の先細り感に不安を感じ、本場を見てみようと、東京の旭染工を見学に訪れ衝撃を受ける。大量の仕事をこなす熱気あふれる現場を前に「やりたい」という気持ちがふつふつと湧きあがった。同時に「自分にやりきれるだろうか。1年もつだろうか」と恐れも抱いたという。

てぬぐいは近年、多彩な用途で使われるようになり、てぬぐい作家や専門店などの台頭とともに業界は活気がある。江戸時代、歌舞伎役者が作る粋な文様てぬぐいが庶民の憧れの的となったり「てぬぐいあわせ」(絵柄くらべのようなもの)で柄を競うなど、一種のブームともいえる現象を引き起こしていたことをかすかながらに彷彿とさせる。

二関さん自身は、仕事のとき頭に巻くほか首もとに巻いて使う。おしゃれとしてですかと聞くと「それもありますが、夏涼しくて、冬暖かいので」と言う。さらにからだを洗うのも好きだ。「てぬぐいは使い込むとモサモサしてきて『堅い』と『柔らかい』の中間で気持ちいいんです」。年齢的に多い、友人の出産祝いに、自分の染めたてぬぐいと同布で作られた腹掛けをセットにして贈るのも楽しみのひとつ。わざわざ「かまわぬ」(てぬぐい専門店)で購入し、ラッピングしてもらって贈る。吸汗性のよいてぬぐいは赤ちゃんに最適。「喜んでくれます」。

そんな実用派の二関さんにとって、昨今の凝ったてぬぐいデザインは「用途を狭める」ように思える。以前は、若い人がデザインする多彩な色、新しいデザインこそと思っていたが、今は逆に昔の型を掘り返したいと思う。白地にバット(紺)一色のシンプルなものへの思いが、染めるほどに強くなる。はからずも、それは東京古来の色柄だった。思いは止まらず、いつか自分で浴衣、てぬぐいをプロデュースしたいと思うようになった。「同僚ともよくそんな話をします」。日本的なものへの思いは昔からですかと聞くとそうですねとうなづき、「若い頃は友達に合わせて雑誌に載ってる格好もしましたが、思い返すとどこかしっくり来ていなかったですね」と笑った。

ひと癖ある職人たち

型付け(板場)から染めへ、染めから洗い場へ ‥‥‥ てぬぐいを染める注染の仕事は分業で進む。「分業だからこそいいものができるし数もこなせる」と二関さん。しかしここでは、相方とのあうんの呼吸が必須である。職人たちは「みんなひと癖ある人ばかり」。一匹狼の集まりだが、自分の失敗は丸ごと相方にもはね返る。「それがキツイ」。1枚1枚手作業で型付けされた生地 20 数枚を、自分の一注ぎの失敗で全部ボツにしてしまったとき。最初はずいぶん落ち込んだ。他の職人の目が気になって仕事に集中できないこともあったが、今は何を言われてもいいと思う。要領が悪かろうと、残業になろうと、無事上がればそれでいい。失敗は? と再度聞くと「知らんぷりです」と言ってにやりと笑った。「逆のこともありますからお互い様です」。少量多品種化しているてぬぐいの仕事は、作業が煩雑で他の人をかまっていられないのだと言う二関さんに、一匹狼の職人になりつつある男の顔を垣間見た気がした。

社長がちょっと手綱をゆるめるとそれぞれの方向へ吹っ飛んで行ってしまいそうという、よい意味で「バラバラ」な職人集団の中にいることが今とても居心地よい。職人気質で「おっかない」社長のどこかおっちょこちょいなところが可愛くて、口にしたことはないがとても尊敬している。

二関さんの転職のきっかけともなった、てぬぐいはためく干し場は、来訪者には今ものどかであたたかな情景を見せている。が、当の二関さんは言う。「のどかなんてとても!  干し場 を見るのはドキドキです。染めはやっぱり乾かないとわからないですから」。

それでも、忙しい1日はほぼ毎日きちんと時間通りに終わり、趣味のピアノもしっかり楽しむ毎日である。





 

 PICK UP

 


 MEMO

※ 水をよく吸うもめんは日本の湿気の多い気候風土によく合う素材。浴衣をおむつに、そして雑巾になるまで使い切った時代は川辺に多くの染工所が立ち並んだ。浴衣市場の縮小とともに染工所は減ったが、近年はてぬぐい市場に活気がある。

※ 浴衣や手ぬぐいを染める「注染」は日本独自の技法。やかんを使って染料を注ぐ。染色の多くは1つの型で1色を染めるが、注染では1つの型で複数の色を染められるのが特徴。色と色の間に糊を置き、染料が隣に入り込まないようにして一気に染める。これを「差し分け染め」という。また、裏からも染料を注ぐため、裏返しても同じ染まり具合で色に深みがあるのも特徴。

 染め職人 DATA

■ 給与:
20 万〜(住宅手当含、社会保険完備)( 旭染工の場合)
■ 求める人材:
染め、てぬぐいに興味がある人。根気仕事で最初はハードなので、好きでないと、簡単に稼げるアルバイトに慣れた今の若い人は続かない。(旭染工社長談)
■ 注染業界:
東京、大阪、浜松が三大産地。業界は淘汰されてきたが、残る染工所はてぬぐい中心に活況を呈している。

 SHOP DATA

■ 旭染工(株)
東京都足立区花畑 2-14-6 Tel:03-3883‐0014

■ 買える場所
旭染工の仕事は 2 割が個人受注で、 8 割が問屋経由。日本橋卸戸田屋商店もそのひとつ。戸田屋商店経由で、東急ハンズや三越、日本橋ちどり屋などのてぬぐい専門店で買えるが、訪ねて行けば戸田屋商店でも購入可。手ぬぐいに造詣が深く常時 1000 種近い柄がストックされている。先代の小林永治さんに聞くと、旭染工は腕がよく、難しい仕事もこなせるなくてはならない染工所とのこと。
(株)戸田屋商店 東京都中央区日本橋堀留町 2-1-11 Tel:03-3661-9566

 

*本文は「 MEMO 男の部屋 2007 年 4 月号」(ワールドフォトプレス刊) に掲載されたものです

文:舟橋左斗子
写真:柏原文恵



 職人近況

大阪の注染工場に移って3年目、そして3回目の繁忙期をむかえています。大阪であっても、関東、東北方面の仕事が多いのは意外でした。

半ば押し込みのような形で今の工場に転職したのですが、あらためて、何だったのかなーと思います。あの時の大阪で仕事がしたいと思った情熱というかなんというか。後悔はないです。

まだまだ道半ばという感じです。

( 2012/6/24. 二関孝宏さんより) 


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